JIS X 4153:1998 文書スタイル意味指定言語(DSSSL) 解説 この解説は,本体及び附属書に規定した事柄,並びにこれらに関連した事柄を説明するものであって,規格の一部ではない。 1. 制定の趣旨 標準一般化マーク付け言語(Standard Generalized Markup Language, SGML)は, マーク付けによって文書の論理構造表現を規定するが,それとフォーマタとのインタフェースについては利用者に任されている。しかしフォーマット指定を標準化することによって,フォーマティングまでを含む文書の交換を可能にしたいという利用者要求は強く,それに応えるために,システム依存性なしに,組版,ページ割り,面付け等を指定できる記述言語が国際標準化機構ISO/IECによる標準化の課題として検討されることになった。 文書スタイル意味指定言語(Document Style Semantics and Specification Language, DSSSL)は,グラフィックアート及び電子出版システムの製造業者及びその利用者,電子出版応用の開発技術者,編集スタッフなどを利用者として,次に示す利用者要求1)を満たす規格を目標に,開発作業が進められてきた。 a) 意図する文書レイアウトを,フォーマティング機能のセマンティクス集合として表現する。 b) 意図するページレイアウト記述を,コンテントとは独立な方法で指定する。 c) 任意の文書クラスに関して共通なレイアウト構造化規則を定義する。 d) さまざまなタイプ及びサイズをもつ幾つものコンテントの配置制御を行う。 e) 表,数式, 化学式などの,多用な文書実体を組版する。 f) 文字を含むコンテントを任意に回転し,拡大縮小することができる。 g) 浮動要素を位置決めするレイアウト処理を可能にする。 h) フォーマット済み文書部分を扱える。 2. 制定の経緯 当初は,フォーマタを標準化しようとする ISOのアプローチがあった。しかしその後,既存のフォーマタとのインタフェースを可能にすると共に,新たなフォーマタの開発をも可能にするために,フォーマタの標準化は中止され,フォーマット指定を標準化するという現在のアプローチが採用されて,技術委員会ISO/IEC JTC1/SC18の作業グループWG8によってDSSSLの開発が開始された。 DSSSLの国際規格案(Draft International Draft, DIS)2)は 1991年2月に配布され,各国のレビューの後,1991年 8月の投票で承認された。しかしこのDIS投票に際して,各国から非常に多くのコメントが提出された。それらへの充分な対処にはかなり多くの部分の修正が必要となり,1994年8月に新ドラフト3)を完成,配布した後,4ヶ月のレビュー期間を設けた2nd DIS投票が行われた。 2nd DIS投票は賛成多数で承認されたが, そこで提出された多くのコメントを反映する編集作業に多くの時間を要した。最終的な編集は, 規格案の実装を行いながら進められ, 慎重な実現容易性の確認が行われた。これらの経緯を経て,1996年4月にDSSSLはISO/IEC 10179として出版された。ISO/IEC 10179の出版と共に, DSSSLの処理系もフリーソフト4)として公開された。 工業技術院からDSSSLのJIS化作業を委託された日本事務機械工業会は, 1991年6月に文書記述・フォントJIS原案作成(DDFD)委員会を設立し, DIS 10179の翻訳を開始した。翻訳作業は, SC18/WG8におけるDISの編集作業と並行して行われ, 翻訳過程で明らかにされた問題点は直ちにSC18/WG8にフィードバックされて, 国際規格に反映された。DISテキストの日本語訳は, 日本事務機械工業会の技術資料6)として限定出版し, 日本語でのDSSSLの内容レビューを急ぐユーザの要求に応えた。 ISO/IEC 10179の出版の後, DDFD委員会はそれに対応した翻訳のレビューを急ぎ, JIS原案を1997年3月に工業技術院に提出している。 3. 審議中の主要検討課題 ISO/IEC 10179の翻訳審議中に多くの議論が行われた課題を次に示す。 3.1 フォーマティング関連用語 3.1.1 DSSSL固有の日本語組版機能表記 DSSSLは,いくつかの日本語組版機能をサポートし,それらに機能の特徴を示す英語表記を与えている。この規格は,それらの表記をDSSSL指定中に記述しなければならないため,意訳せずに,英語表記の直訳を採用している。次に,それらと通常の日本語組版機能表記との対応を示す。 原語表記 この規格で用いた日本語表記 通常の日本語表記 −−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−−− emphasizing-mark 強調マーク 圏点 glyph-annotation グリフ注釈 ルビ multi-line inline note 複数行行内注釈 割注 3.1.2 類似した用語の訳し分け 次に示すフォーマティング関連用語には,この規格が必ずしも明確な定義を与えていないものもあるが, なるべく混乱を避けるために次の訳し分けを行っている。 a) composition及びlayout 1) composition: 組み処理 流し込むものの組み立て(多くは文字組み)。 2) layout: レイアウト 流し込み先の領域の記述又は記述した領域における配置処理。 b) style及びformat関連 1) style: スタイル 個々の組版要素に, 目的とする組版を行うために記述する性質。フォーマット処理系においては, 特質の集合をもスタイルと呼ぶ。 2) typographc style: 組版スタイル 組版の性質。 3) format: フォーマット 組版に関連する処理。又はその結果。 4) formatting: フォーマット(処理) 組版に関連する処理。 5) formatting process: フォーマット処理系 DSSSL処理系を構成する処理の一つ。SGML文書に対するスタイルの適用を司る。 6) formatter: フォーマタ フォーマット処理を構成する処理の一つ。組版要素に適用したスタイル特質を解釈して,実際にページを生成する。 c) spaceの訳し分け 1) space: 空白文字 文字を指している場合には, 空白文字とする。 2) space: 空き 表示媒体上のレイアウトなどに用いる場合は, 空きとする。 3.2 主要なDSSSL用語 ここに示す用語には, この規格の中で定義が存在する用語もあるが, 理解を容易にするためにさらに解説を加えて, 必要に応じて訳語選定の理由も示す。 a) attribute: 属性 SGML(JIS X 4151)が定義する属性。 b) characteristic: 特質 流し込みオブジェクトがもつ名前付きパラメタ。その値は, 流し込みオブジェクトによって構成される木構造に従って継承する。ただし, 下位のオブジェクトにおいて値を再定義できるだけでなく, 再定義を禁止することも可能とする。 DSSSLは, attribute, characteristic, 及びpropertyを, 異なる概念に割り当てている。そこでこの規格では, それぞれに属性, 特質, 特性という訳語を採用して, 混乱を避けた。 c) Document Style Semantics and Specification Language: 文書スタイル意味指定言語 ことばを補って意訳すると,"文書スタイルのセマンティクス記述及びそのセマンティクスの適用指定のための言語"となる。この規格は, 原規格の題名との対応を明確にするため, 直訳表現を採用している。 d) expression language: 式言語 IEEE及びR4RSが規定するプログラム言語Schemeを基本として,副作用をもつ手続き, gcd及びlcmを取り除き, データ型の拡張, 言語に依存しない文字列処理及びキーワード引数のサポートを加えた言語。主に, 特性値及び特質値の決定に用いる。 Schemeはlisp系の言語であって, それらの言語の基礎をなすlambda-expressionがラムダ式と表記されることが多いので,expression languageの訳語として式原語を採用している。 e) flow object: 流し込みオブジェクト フォーマット処理が扱う組版機能に対応した情報単位であって,流し込む単位ともなる。 f) grove: グローブ グローブは, SGML文書を解釈した結果として作成される内部データであって, その論理的な構造を規定している。 groveは, Graph Representation Of property ValuEs の短縮形であり, その中に複数の木の存在を暗示している。この規格では, 関連する手続き名との対応を付けにくくなることを避けるために, カタカナ表記を採用している。 g) node: ノード グローブ内のデータの構造記述の単位であって, ノードの管理下におくデータを特性としてもつ。 多くの箇所で言及があり, 関連する手続き名との対応を付けにくくなることを避けるために, カタカナ表記を採用している。 h) property: 特性 特性は,ノードの管理下にあるデータを示し,名前によって特性の意味及び管理下におくことのできるデータの型が規定されている。 この規格では, JIS X 4155におけるpropertyの訳語"特性"を採用しているが, ISO/IEC 9541(JIS X 4161)が規定するpropertyを参照する場合には, JIS X 4161におけるその訳語"属性"を用いている。 i) Specification Of Sequence Of Flowing Object (sosofo) この用語はフォーマット処理指定に関する記述において頻繁に使われ, 原規格ではその際に短縮形のsosofoを用いているので, この規格においてもそれに従った。 3.3 翻訳に留意したその他の用語 類似した次の用語については, それぞれ異なる訳語を対応させて, 文意の明確化を図っている。 a) atomic, core及びkernel 1) atomic: 原子 "原子流し込みオブジェクト"の文脈において使用する。 2) kernel: 核 "生成オブジェクト"の文脈において使用する。 3) core: 中核 "核照会言語"及び"核式言語"の文脈において使用する。 b) component及びconstruct 1) component: 構成要素 2) construct: 構成子 c) construction rule, creation及びsyntax production 1) construction rule: 構築規則 2) creation: 生成 3) syntax production: 構文規則 d) transformation及びtranslator 1) transformation: 変換 2) translator: 翻訳系 e) meaning及びsemantics 1) meaning: 意味 2) semantics: セマンティクス又は意味 構文, 流し込みオブジェクト, 特質などにおける使用に際しては, セマンティクスとし, 通常の記述又は長い片仮名表記が連続する記述においては, 意味とする。 f) sequence及びstream 1) sequence: 列 2) stream: ストリーム UNIX及びCライブラリにおいて片仮名表記がかなり定着しているため, それを採用している。 3.4 SGML関連用語との関連 訳語選定に際しては,SGMLを規定しているJIS X 4151,SGMLの拡張規格であるJIS X 4155, 及びSGML関連規格であるJIS X 4171との整合を第一に配慮した。しかし次の用語などについては,その後関連分野で普及した訳語表記に従っている。 原語 訳語 ------------------------------------------------ SGML parser SGMLパーザ SGML subdocument entity SGML副文書実体 SGML text entity SGMLテキスト実体 associated element type 対応要素型 attribute specification list 属性指定リスト character class 文字クラス entity text 実体テキスト instance インスタンス literal リテラル opening delimiter 開き区切り子 parameter entity パラメタ実体 processing instruction 処理命令 rank ランク token トークン 4. DSSSLの基本概念の補足 4.1 グローブ グローブ(grove)は,SGML文書を解析してできた内部データ構造を示す。SGML文書を構成するすべての情報は,ノードとノードのもつ特性とによって表現できる。それらを,親子関係, 所有者・属性関係,ID参照関係などの関係で結び,グラフ構造にしたものがグローブである。 グローブを構成するノードはクラスをもつ。ノードの所属するクラスによって,そのノードのもつ特性及びそのノードの管理下におくノードのクラスが決まる。このクラス及び特性は,SGML特性定義によって定義する。SGML特性定義は,多くのモジュールからなり,グローブ設計において宣言されなかったモジュールに含まれるノードは,特殊な値ヌルで表現し,それ以下の構造を無視する。 4.2 関連指定 関連指定は,入力文書の各構造を基に出力文書をどのように構成するか記述する。つまり, 標準文書照会言語を用いて処理の対象となるノードを特定し(照会式),それらのノードに対応したノードの出力を記述し(変換式), その関連指定のもつ優先順位(優先順位式)に基づいて適用順序を決定する。 照会式で特定するノードは複数でもよく,その場合には特定した各ノードに変換式を適用する。変換式は,出力となる部分グローブを記述する式subgrove-spec及びその部分グローブの配置を決定する式create-specからなる。複数の関連指定が,同一のノードに適用可能な場合には,優先順位式の評価値のより大きい指定を優先する。 関連指定は宣言的であって, 記述順と実際の適用順とは異なる。これは, 従来のファイルを先頭から解釈して処理を行なう型の応用だけでなく, 部分アクセスを可能としたデータベースに記憶した文書に関して,規則を順に適用して処理を行なう型の応用も利用可能にするための配慮である。 4.3 補助解析 補助解析は, 要素内容及び属性値文字列をさらに構文解析することを意味する。この場合に生成するグローブを補助グローブと呼び, 応用固有の処理の対象とする。この規格では, 文字列をトークン列に分割する補助解析, 及びノードリストからノード正規式に合致するノードを選択する補助解析が定義されている。 4.4 結果グローブの検証 SGML出力処理は, 変換処理系の後処理であって, すべての関連指定の適用の後に結果グローブの検証及び文字から文字への変換を行う。 変換処理系では, その出力もSGML文書であると規定されている。グローブにはノードリストを値とする特性及び内部処理だけで使う特性が存在し, これらはSGML文書中での表現形式をもたない。結果グローブから, 適合SGML文書又は副文書を作成できることは, その結果グローブに一定の規則に従った変換を施すことで検証できる。この変換結果は, 出力のSGML文書を, 構文解析して作成したグローブに等しくなければならない。 4.5 DSSSLにおける文字の扱い DSSSLでは, SGML文書の構文解析の前段階のストレージ管理系によって, 内部コードに変換される。この内部コードへの変換は, SGML宣言に従って行う。内部コードに変換された文字は, DSSSL指定からは文字名を使って参照する。文字又は文字列の比較は, すべてこの内部コードに正規化した後に行う。 4.5.1 組合せ文字 組合せ文字は, 要素型形式combine-charによって指定する。組合せ文字として宣言された一連の文字は, 組合せ文字に置き換える。例えば, 文字e, 文字'の一連の文字から文字アキュートアクセント付きe(LATIN SMALL LETTER E WITH ACUTE)への置換えなどを指定する。 4.5.2 文字から文字への変換 文字から文字への変換は, ある文字をそれ以外の複数の文字に変換することを指定する。例えば, 文字アキュートアクセント付きeから文字e及び文字'への分割を指定できる。 4.5.3 SDATA実体対応 SGML文書中に埋め込んだSDATA文字実体は, 要素型形式map-sdata-entityを用いて対応を記述する。要素型形式map-sdata-entityでは, 実体名, 代替テキスト及び文字名を記述する。もし, 参照している文字が規格で定めている文字でない場合, 要素型形式other-charを用いてその使用を宣言しなければならない。 4.5.4 リテラル記述文字 リテラル記述文字は, SGML宣言中でリテラルを用いて宣言した文字を示し, 要素型形式literal-described-charを用いて, 文字名との対応を記述する。もし, 参照している文字が規格で定めている文字でない場合, 要素型形式other-charを用いてその使用を宣言しなければならない。 4.5.5 文字とグリフとの対応 文字とグリフとの対応は, フォーマット処理系において特に重要となる。規格で定めた文字に関しては, システムは文字とグリフとの対応を暗黙に知っていてよい。規格で定めてなく, 要素型形式other-charを用いてその使用を宣言された文字に関しては, 構文added-char-properties-declarationを用いて, 対応するグリフのgliph-idを宣言しなければならない。 4.6 標準文書照会言語(SDQL) 標準文書照会言語は, 入力グローブから処理の対象となるノード(群)を特定するために用いる。標準文書照会言語は, ノードのクラス, 特性値及び属性値を用いてノードをふるい分けしたり, 注目しているノードからの親子関係, 属性-所有者関係をたどることによって, 目的とするノード(群)を特定する。 4.7 式言語 式言語はSchemeを基本にしているが, メインプログラムは存在しない。式言語は, 関連指定又は照会構築指定において, ノード又は流し込みオブジェクトの生成を記述する場合に, 標準文書照会言語を用いて目的とするデータにアクセスでき, その値を式言語を用いて処理した結果を利用できる。この処理を記述する式は, 処理系が必要に応じて最上位環境において評価するのであって, 他の式の評価結果及び記述上の順序に影響されない。式言語には, その部分集合である中核式言語が規定され, スタイル指定においては中核式言語の範囲内で記述することが多い。 4.8 流し込みオブジェクト 組版機能に対応した情報の単位であって, 対応する組版機能を決定するクラスと機能詳細を設定するための特質をもつ。流し込みオブジェクトは, DSSSLフォーマット処理において, フォーマタとの概念的なインタフェースを構成する。既存のフォーマタを利用してフォーマット処理を実装する場合には, この流し込みオブジェクトの情報をフォーマタが理解できる形式に変換する。新規にフォーマタを開発する場合, 流し込みオブジェクトを直接扱ってフォーマットしてもよい。 流し込みオブジェクトは, 他の流し込みオブジェクトの列を子としてもつことができる。この流し込みオブジェクト列を接続する仮想的な点としてポートがあり, そのセマンティクスを規格が規定する。 4.9 特質値の決定 特質には, 継承可能特質及び非継承可能特質がある。 非継承可能特質においては, 値式が存在する場合にはその式を評価した結果となり, 値式が存在しない場合には, 規格が規定した無指定時値となる。 流し込みオブジェクトの特質指定の文脈では, 継承可能特質の特質値は, 次の規則の最初に適合するものとなる。 a) キーワードforce!をもつ値式がある場合には, それを評価した結果。 b) 現上書きスタイル中にその特質値がある場合には, その値。 c) 値式が指定されている場合, その式を評価した結果。 d) キーワードuseが指定するスタイル中にその特質値がある場合には, その値。 e) 流し込みオブジェクト木の上位で定義した値。 通常のオブジェクト指向言語における手続き継承の場合, 下位のクラスが上位で規定したものを書き換えることができる。しかし, DSSSLの場合には, 流し込みオブジェクト木の上において, 子孫が先祖の設定した特質値を上書きできるだけでなく, 祖先がその子孫の行う特質値の上書きを抑制できる。これは, 規則a)の記述形式を用いて指定する。この先祖が上書き抑制を指定した特質の集合を, 上書きスタイルと呼ぶ。上書きスタイルに含まれている特質であっても, さらに同じ記述形式で指定することによって, 子孫はその値を上書きできる。スタイル定義の文脈では, 規則a), b), c)を用いて定義する。 継承可能特質の継承している値を返す手続きinherited-c及び継承可能特質の現在指定されている値を返す手続きactual-cは, 複数の手続きを総称したものであって, 実際には特質ごとにこれらに対応する手続きが存在する。つまり, 継承可能特質font-sizeに関して, 手続きinherited-font-size及び手続きactual-font-sizeが, 継承可能特質quaddingに関して, 手続きinherited-quadding及びactual-quaddingが存在する。 4.10 ポート及びその指定 原子流し込みオブジェクト以外の流し込みオブジェクトは, 流し込みオブジェクトを子にもつ。流し込みオブジェクトは子をストリームとして扱い, このストリームを付属する仮想的な点としてポートをもつ。流し込みオブジェクトに子を付属させる場合に, このポートを指定することによって, 付属させた子のセマンティクスを決定する。 ポートと子流し込みオブジェクトとの対応は, 子の流し込みオブジェクトの生成指定において, その流し込みオブジェクトの意味を表すラベルを付け, 親の流し込みオブジェクトの生成指定において, ラベルとポートの対応を記述して行う。 4.11 構築規則 構築規則は, スタイル指定において流し込みオブジェクト木の構築を記述し, 照会式, 構築式及び優先順位式を構成要素とする。照会式及び優先順位式は, 関連指定と同じ意味をもつ。構築式は, 流し込みオブジェクト木を構成する。構築規則には, 照会式部分を簡易化し要素の共通識別子を記述する要素構築規則, 一意識別子を記述する識別子構築規則などの簡易記述も存在する。 構築規則では, 機能query, 機能expressionを利用可能にしない限り, 中核照会言語及び中核式言語だけを用いる。 4.12 領域 領域は, 流し込みオブジェクトをフォーマットした結果生成される矩形であって, 幅及び高さをもつ。領域が, 互いに重り合うことはない。最終出力においては, 領域の内部にグリフ, 画像などが配置される。 4.13 ページモデル, 段集合モデル, 段部分集合モデル, 及び段モデル ページモデルはページ列流し込みオブジェクトと関連し, 段集合モデルは段集合流し込みオブジェクトと関連し, 段部分集合モデルは段部分集合流し込みオブジェクトと関連し, 段モデルは段流し込みオブジェクトと関連し, それらを表示媒体のサイズの選択と表示媒体上での配置とを記述する。 ページモデルは, ページサイズを指定し, ページ上の区画の大きさと配置を記述する。 段集合モデルは, 関連する複数の段部分集合の関係を記述する。段集合モデルでの記述を必要とする組版機能として, 側注がある。段集合モデルには, 幅の異なる複数の段部分集合を含めることができ, それらを結ぶ(tie)ことによって, 側注段内の注釈とその参照点との位置揃えが記述可能になる。 段部分集合モデルは, 同じ指定に従う複数の段を含み, それらの関係を記述する。段部分集合での記述を必要とする組版機能に, 段の終端にある空白の配分の指定などがある。 段モデルは, 段部分集合に含まれる段を記述する。段モデルでの記述を必要とする組版機能に, 脚注との本文との分離線の指定などがある。 4.14 生成オブジェクト, 間接sosofo及び参照値 4.14.1 生成オブジェクト 流し込みオブジェクト木構成の段階ではその値が不明で, フォーマット処理をある程度行って初めて値が決定できるオブジェクトの総称。その例に, ページ番号がある。 4.14.2 間接sosofo 参照値を内容とする流し込みオブジェクトを返すsosofo。このsosofoが生成する流し込みオブジェクトを, 間接流し込みオブジェクトと呼ぶ。 4.14.3 参照値 参照値は, 複数箇所で利用する生成オブジェクトであって, 特質と同様にmake式を用いて流し込みオブジェクトと対応させる。参照値を利用するための関数は, 修飾領域, ヘッダ領域, フッタ領域, 脚注領域及び脚注分離領域の中だけで利用でき, 本文及びそれらの領域内の流し込みオブジェクトがもつ参照値を名前で検索できる。この機能を利用して実現する機能に, ページ毎に番号を初期化し直す型の脚注番号がある。 4.15 length-spec length-specは長さの指定であって, スカラ部と単位部とからなる。同じ単位をもつ長さの計算は即時に行われるが, 異なる単位をもつ長さの計算は, 実際にその値が必要となるまで単位変換を行わない。これは, 計算誤差を最小に押えるために導入されている。 4.16 フォント フォント指定は, 流し込みオブジェクトの特質に値を指定して行う。特質font-nameを指定することによって, 特定のフォントを指定できる。特質font-name以外の特質を用いて目的とするフォントの特徴を指定し, 具体的なフォントの選択を処理系に任せることも可能である。機能font-infoを利用可能にした場合, 特定のフォントに関するフォント属性にアクセスできる。 4.17 カラー カラーの扱いは, JIS X 4154 [標準ページ記述言語(SPDL)]と同じ方式に基づく。公開識別子を用いて, カラー空間及びその空間内でのパラメータを指定してカラーオブジェクトを作成し, 必要とする流し込みオブジェクトの特質に指定する。 4.18 DSSSL体系形式 DSSSL指定は, 変換指定, スタイル指定及び各種定義からなり, それらをまとめて扱うためにSGML文書となっている。DSSSL体系形式は, このDSSSL指定をまとめるためのSGML文書の構造を記述する文書型定義に関する規定である。DSSSL体系形式に従った要素及び属性を含めば, 具体的な要素名などを変更してもよい。 4.19 機能 DSSSLは, 効率の高い実装を可能とするために, 多くのオプション機能を設定している。DSSSL指定では, その指定で必要とする機能を要素型形式featuresを用いて宣言しなければならない。 4.20 言語宣言 DSSSLでは, 文字及び文字列処理のために, 文字と文字との関係を定義する必要がある。これは, 構文define-languageを用いて行い, 照合順番及び文字の大小変換を宣言する。 5. 懸案事項 ISO/IEC JTC1/SC18/WG8は,DSSSLに関して技術訂正(Technical Corrigendum)の作成検討を開始した。この規格の作成に際しては,提案されているエラーレポート5)の項目の中で技術的な内容が変わらないと判断される項目, つまり原規格とこの規格との間に不整合が発生しない次に示す項目に関しては,既にそれを翻訳に反映したが, それら以外の項目に関しては, 技術訂正の完成の後に, 追補などによる対処が必要である。 a) 8.2.1 ", or assignment of"を削除する。 b) 8.3.1.4 例の中の式(lambda x x)を, (lambda (#!rest x) x)にする。 c) 8.5.8 #\spaceに関する記述において, 逆スラッシュとリテラルspaceとの間に, 余分な空白がある。 d) 9.4 特性classnmに, "#all"を値とする属性cnを追加する。 e) 9.6 特性集合のための公開識別子に, スラッシュを補う。 f) 9.6 クラスsyntaxの特性slitasnsにおいて, 属性acnmpropのもつ値refnameをresnameにする。 g) 9.6 クラスdoctypeの特性elemtpsにおいて, 属性acnmpropのもつ値gi rankstemをgi stemにする。 h) 9.6 クラスentdclの特性entityの記述に, "その実体が無指定時実体と宣言されて いる場合には, ヌル値をもつ"ことを記述した要素whenを加える。 i) 9.6 クラスelementの特性simplelkにおいて, 属性acnmpropの値linksetをlinktypeにする。 j) 9.6 モジュールsubdcsdsが依存するモジュールsubdabsをモジュールsubdcabsにする。 k) 9.6 GIのための字句定義lexdefにおいて, 属性providerの値dtdをdoctypeにする。 l) 10.2.1 抽象データ型groveposの式言語表現において, シンボルを許可する。 m) 10.2.3 手続きsiblingsの呼出しを手続きrsiblingsの呼出しにする。 n) 12.5.4.1 手続きdisplay-spaceの記述において, キーワード引数名をconditional?にする。 o) 12.5.4.1 型length-specを必要とする特質の値として, 型lengthのオブジェクトが指定できるのと同様に, 型display-spaceを必要とする特質にlength-specを指定できるとする。 p) 12.6.6 特質asis-wrap-indentの初期値を0ptにする。 q) 12.6.6 特質last-line-justify-limitの初期値を0ptにする。 r) 12.6.6 特質line-number-sideが, 初期値としてシンボルstartもつと補足する。 s) 12.6.6 特質country:の値は, ISO 3166の定める2文字のコードに限定する。 t) 12.6.9 特質sideline-sideが, 初期値としてシンボルstartをもつと補足する。 u) 12.6.11.1 特質inline-space-spaceが, 初期値としてすべてのフォント配置量を許容することを示す#fをもつと補足する。 v) 12.6.14 特質length:の型を型length-specにする。 w) 12.6.15 特質entity-system-idの値から#fを削除する。 x) 12.6.26.8 特質fraction-barの記述が誤解しやすい。初期値として, 全ての特質を継承値とした流し込みオブジェクトruleを意味する。 6. 参考文献 1) ISO/IEC JTC1/SC18/WG1 N1281, User requirements for DSSSL, 1991. 2) ISO/IEC DIS 10179, Document Style Semantics and Specification Language (DSSSL), 1991-02. 3) ISO/IEC DIS 10179.2, Document Style Semantics and Specification Language (DSSSL), 1994-08. 4) DSSSL online, http://sunsite.unc.edu/pub/sun-info/standards/dsssl/dssslo/do960816.htm. 5) ISO/IEC JTC1/SC18/WG8 N1883, Proposal for TC for ISO/IEC 10179, 1996. 6) JBMS(F)07, ISO/IEC DIS 10179 (Document Style Semantics and Specification Language / SPDL), 日本事務機械工業会, 1993. 7. 原案作成委員会 原案作成委員会である日本事務機械工業会の文書記述・フォントJIS 原案作成委員会は,学識経験者,メーカ及び利用者で構成され,その委員会の中に他の文書関連JIS開発との整合をとるプロジェクトリーダ会議と,実際の翻訳作業を行うハイパメディアプロジェクトとが設置されている。それらの構成員を次に示す。 日本事務機械工業会 文書記述・フォントJIS 原案作成委員会 構成表 氏名 所属 (委員長) 池田 克夫 京都大学 (副委員長) 小町 祐史 SC18/WG8国内委員会(松下電送株式会社) 三宅 信弘 通商産業省機械情報産業局 竹田原省二 通商産業省工業技術院標準部 兼谷 明男 通商産業省工業技術院標準部 渡辺 清次 財団法人日本規格協会 篠崎 徳量 愛知女子短期大学 小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会 宮内 久男 株式会社岩波 田中 洋一 凸版印刷株式会社 空閑 明 共同印刷株式会社 高沢 通 大日本スクリーン株式会社 石井 裕 大日本印刷株式会社 吉野 順 NTT データ株式会社 宮本 義昭 日本ユニシス株式会社 武居 則幸 セイコーエプソン株式会社 伊藤 晃 日本情報科学株式会社 藤田 克彦 株式会社リコー 柳沢 一大 日本電気株式会社 高橋 亨 株式会社日立製作所 安達 淳 沖データ株式会社 (事務局) 佐々木 好洋 社団法人日本事務機械工業会 プロジェクトリーダ会議 構成表 氏名 所属 (リーダ) 小町 祐史 SC18/WG8国内委員会(松下電送株式会社) 小笠原 治 社団法人日本印刷技術協会 小田 宏行 通商産業省工業技術院標準部 高橋 亨 株式会社日立製作所 安達 淳 沖データ株式会社 田中 洋一 凸版印刷株式会社 今郷 詔 株式会社リコー 筧 捷彦 早稲田大学 DSSSLプロジェクト 構成表 氏名 所属 (リーダ) 安達 淳 沖データ株式会社 小町 祐史 SC18/WG8国内委員会(松下電送株式会社) 奥井 康弘 日本ユニテック株式会社 荻久保 友史 株式会社東芝 下垣 弘行 共同印刷株式会社 (事務局) 佐々木 好洋 社団法人日本事務機械工業会