1. 序


1994年から95年にかけてのインターネットの爆発以来、急速にWWWを使った情報発信 が増えている。企業にとってWWWは、製品情報等(以下、「カタログ情報」と記す)の 格安な発信手段であり、今後も増え続けるであろう。

しかし、現状、ホームページの情報表現方法は不統一きわまりなく、WWWの普 及が、全体の利用可能性を著しく損なうという皮肉な結果を招いていることも事実 である。Yahoo!のような検索サービスを使っても、ヒットした検索結果が数万件を 軽く越えてしまうことが少なくない。すなわち、利用者は「必要なものを探しきれ ない」という状態におかれているのである。

(1) 電子商取引の消費者インタフェース

こうした情報洪水のなかにあっては、消費者向けの電子商取引の試みも前途多難を 思わせる。ネットサーフィンを繰り返しても、必要な情報を得ることは難しく、し たがって複数の商品を比較しながら購入するといった、ごく当然の消費者行動をと ることができない。今後、この分野を発展させるには、WWWという情報世界に、いか に消費者向けのインターフェイスを構築するかが問題ではないだろうか。 この消費者インターフェイスは、けっしてひとつのホームページに閉じるべきもの ではない。現在でも、情報量(製品点数、と言い換えてもよい)の多いサイトでは、 独自にデータベースを使った検索システムなどを導入し、動的なホームページを提 供している。しかしこれは、はっきりと閉じた空間の中での検索支援であるにすぎ ない。

たとえばノートパソコンの購入希望者は、複数のメーカー製品を比べるのが普通で ある。NECならNECの製品だけを比較するのではなく、IBMや富士通といった各社の製 品を水平方向に比較する。こうした消費者としてごく当然の情報検索行動を支援す るものでなくてはならないのである。

(2) トップダウンカテゴライジングの限界

その解決の一策として、HTML表現技法を(多少、拡張しながら)統一するという方策 が考えられる。製品のカテゴリーを厳密に分け、その区分ごとに表現するべき内容 と、そのタギングルールを標準化するという方法である。これをトップダウンカテ ゴライジングと呼ぶことにする。

トップダウンカテゴライジングの長所は、美しい標準化が得られるということであ る。反面、短所は、その(複雑な)標準化技法を守ってもらえるとは限らない、とい うことだ。インターネットは分散システムであり、HTMLを用いてホームページを記 述するという仕事はすべての人間に開放されている。この状態で、厳密な標準化技 法を浸透させることはきわめて難しい。

また、カテゴライジングがもつ本質的な不安定さも問題となる。たとえばデジタル ビデオ、デジタルスチルカメラという二つの分類があるとして、「MPEGを用いた静 止画も動画も撮れるメモリー式のカメラ」が登場したとしよう。果たしてどう分類 するべき製品なのか、正解は誰にもわからないからインプリメンテーションに曖昧 さが生じる。また、こうした製品が登場するたびに、美しい分類体系を頭から見直 してアップデートし、それをまた周知徹底するという作業が発生してしまうのである。

(3) ボトムアップカテゴライジングの可能性

対して、分散システムという特徴を生かした「ボトムアップカテゴライジング」と いう新しい方法論を提案したい。これはAnchor Based Categorizingとでもいうべき 手法である。その基本的なアイディアは以下の通りである。 まず、ホームページ作成にあたって、2種類のリンクを定義する。

第一は、水平リンクである。ある製品のカタログ情報を記述し、「競合する」と思 われる他社製品に対してリンクをはる。第二は、垂直リンクである。当該製品の上 位概念に位置すると思われる製品と、下位概念に位置すると思われる製品にリンク をはるのである。

ひとつひとつの製品のホームページが水平リンクと垂直リンクを備えることによっ て、WWWという情報世界に道標が自然とできあがる。この道標は、人間に対してはネ ットサーフィンの案内役、検索ロボットに対してはデータベース構築の分類基準と して働く。新しい分類にするべき製品が登場した際も、開発した当事者が水平リン クと垂直リンクを定義することによって、自然としかるべき分類のものとして扱わ れるようになる。

(4) 調査研究

ABC技法を実現するためには、HTMLのかわりにXML(eXtensible Markup Language)を 用いることが、必要であろう。XMLは現在、サンマイクロシステムズなど主要な企業 が支持を表明しており、将来を有望視されている。

このアイディアに基づいた技法を開発するために、国際大学グローバル・コ ミュニケーション・センターに委員会を設置し、98年3月の完成を目標に仕様を検討 する。


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