TMJP - Topic Maps Japan 2010    
2010-01-22        


トピックマップを用いたホームサーバコンテンツへの
アクセス支援

Topic maps supported accessing to home server contents

南堀 歩

    

    

小町 祐史

Ayumi MINAMIHORI

    

    

Yushi KOMACHI


大阪工業大学 情報科学部
Faculty of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology


あらまし

DLNA(Digital Living Network Alliance)の普及によって,ホームネットワーク環境では大量かつ多様のコンテンツがホームサーバに蓄えられつつある.大量のコンテンツが複数のホームサーバに分散して記録され,それぞれのホームサーバが互いに異なる体系でコンテンツを扱うと,希望するコンテンツへのアクセスは容易でない。そこでトピックマップを用いてユーザの視点に立ったコンテンツ情報の組織化によって,ホームサーバコンテンツへのアクセス支援を行うことを試みる。

Abstract

A number of and a variety of contents are stored in home servers connected via home networks based on DLNA (Digital Living Network Alliance). The contents stored in distributed home servers with different architectures are difficult to be accessed. Using a topic maps technology, those contents are structured from a user's point of view to be easily accessed.



1. まえがき

情報家電機器のディジタル化は,それの高機能化,低価格化,小型化を促進し,その結果として各種の情報家電機器の所有形態は世帯に一台から個人に一台へと変化しつつある。高機能化された情報家電機器には個人対応に設定(個人化)できる機能[1]が増え,所有者の業務,利用目的,嗜好等に応じて設定された機器は,所有者に強く依存する情報を扱う(検索し,取得し,処理し,記録し,提供する)こと一層容易にしている。しかもそれらの機器が扱い得る情報量は増加し続けている。

DLNA(Digital Living Network Alliance)[2]〜[5]等の規格整備はホームネットワークとそれに接続される情報家電機器の普及を促進し,1台または複数台のテラバイトクラスのホームサーバに多様な情報家電機器がホームネットワークを介して接続されたシステムが情報家電機器利用環境に増え始めている。

情報家電機器利用環境の代表例である家庭内においては,家族の絆による結束はあっても,年齢層,所属する社会,知識・知能・経験・関心を異にする多様な構成員が存在することが多く,そのような各構成員が個人対応に設定した機器をホームネットワークに接続して,それぞれが必要とするデータを,"気安く"("我が家のホームサーバ利用規定"などを用意したり参照したりすることなく)ホームサーバに記録し,しかも他の構成員が記録したデータをも"気安く"アクセスして情報共有・情報交換を行うという,ある意味で特殊な(目的志向の強いオフィス・企業の情報環境とは異る)情報環境が成立する。

テレビの放送番組については,放送用のメタデータが用意され,受信装置においても業界でほぼ合意されたメタデータを用いて記録することができる。しかし家庭内ではテレビ放送の着信データだけを扱うわけではない。

このように多様性が高いにもかかわらず管理機構が不十分な大容量情報環境(ヘテロな情報環境)において,記録されたコンテンツへの利用者視点でのアクセス容易性を高めるために,トピックマップの導入の可能性を検討する。

2. 大学でのヘテロな情報環境例

大学では入試という均一化へのフィルタはあるものの,さまざまな地域の多様な高校から入学してくる学生に対して,基礎学力のペデスタルを揃えたり,大学生活への適合を促進するため,いくつかの試みが行われている。大阪工大の情報科学部では,後者の目的のために基礎ゼミナール(基礎ゼミ)と称する1単位の科目が用意され,各学科に入学した数名が1クラスを構成して,担当教員が用意したプログラムに応じて課題を実行する。

2009年度のクラスO(オー)では,ゼミ生の興味の対象が極めて広範囲にわたり,全員が興味をもって参加できるようなグループ活動分野を特定することが困難であった。そこで,各自が最も得意とする,または興味のある対象に関連するデジタルコンテンツを用意(音楽演奏が得意な学生はその録音データ,スポーツ競技が得意な学生はそのプレイの録画データ,自身でアクションを起こさずに評価鑑賞だけに興味がある学生は紹介したいコンテンツを用意)し,それを提出して,全員がそれらを評価鑑賞しあうという活動が行われた。この活動に関心をもつクラスOメンバ以外からもコンテンツの提供があり,教員が初期に提示したサンプルコンテンツを含めて,図1に示すようなコンテンツが集まった(1人から複数件のコンテンツ提出もあった)[6]。

提出者コンテンツファイルのデータタイプ
B1背景ミュージックzip(wav, wav)
B2ゲーム評価xlsx
X1ゲーム評価へのコメントtxt
B3ウェブコミック評価docx
B4自作PC仕様pdf
B4サーバ構成txt
B4ケータイ内蔵カメラの撮影表示htm, zip
B4ケータイ内蔵カメラの撮影表示rev1htm, zip
B5ゲーム評価zip(wmv, htm)
C1短編小説docx
C2バスケットボールプレイhtm
C3臨書zip(jpg, jpg, jpg, jpg)
N1πの計算zip(docx, exe, exe)
N2サーバ構成txt
N2PC改造txt
N3ドラム演奏"バタフライ"zip(wmv)
提出者コンテンツファイルのデータタイプ
N4ゲーム評価xlsx
Q1ギター演奏1(風)avi
Q1ギター演奏2(ハードレイン)avi
Q2推奨コミックdocx
Q3推奨ミュージックhtm
Q4アニメ評価docx
X1EXCEL動画flv
X1EXCEL動画解説flv
X1MMコミックmpg
X1予稿集(2008)DVDラベルjpg
X1予稿集(2008)DVD目次htm
X1予稿集(2009)DVDラベルjpg
X1予稿集(2009)DVD目次htm
X1著書序文pdf
X2競馬コミック1htm
X2競馬コミック2htm

図1 多様なコンテンツの例(大阪工大基礎ゼミ・クラスOのマルチメディアコンテンツ)

このコンテンツの提供者は,年齢についてのバラツキは少ないが,それ以外の点では1.に示す多様な構成員のコミュニティに類似するコミュニティを構成している。そこで,このコンテンツをホームサーバにストアして,1.に示すヘテロな情報環境に近い情報環境を実現し,その環境において多様なコンテンツをアクセスすることを容易にするためのトピックマップの試作を行った。

ホームサーバとしては,2009年から国内でリリースを開始したWHS(Windows Home Server)をマイクロソフトから提供いただき,マニュアルの不備などについては,マイクロソフトの技術者に直接コンタクトして,システムを稼働させた。提出されたマルチメディアコンテンツを記録したサーバの表示画面を図2に示す。



図2 WHSの表示画面

3. ホームサーバにおけるコンテンツ関連情報

WHSは複数ユーザのファイルアクセスに対応すると共に,リモートアクセスへの対応のために共有フォルダが容易され,図2に示されるとおり,そこに記録されたファイルについては名前,サイズ,種類,変更日が示される。ファイル間の構造やハイパリンクはサポートされない。

DLNAをサポートしているサーバは,Brouseパケットによってコンテンツのカテゴリを絞り込む。製品化されているレコーダは,例えば図3のようなメタデータをコンテンツに関してサポートしている(各製品のカタログによる)。

T社HDDレコーダS社ブルーレイ/DVDレコーダP社ブルーレイ/DVDレコーダ
・ジャンル
・番組名
・人名
・時間帯
・放送回
・チャンネル
・日時
・再放送か否か
・メディア(地上/BS/CS)   
・番組名
・人名
・ジャンル
・番組名
・放送回
・日時
・時間
・番組名
・ジャンル
・日時
・人名
・タイトル
・録画時間
・メディア

図3 各種レコーダがサポートするコンテンツ記述用メタデータ

多様性が高いにもかかわらず管理機構が不十分な大容量情報環境(ヘテロな情報環境)においては,これらの機器が用意した情報に,利用者の多様な視点を加えてメタレヤーでの組織的なナビゲーションサポートを加えることによって,記録されたコンテンツへのアクセス容易性を高めることが望まれる。

4. トピックマップの構成

ここではホームサーバコンテンツというヘテロな情報のアクセスにトピックマップを導入する最初の試みとして,前述の基礎ゼミマルチメディアコンテンツに幾つかのコンテンツ(写真,番組,音楽など)を加えたホームサーバコンテンツを対象として,トピックマップの試作を行った。

情報要素のトピック,関連等へのマッピングについては,必ずしも系統的な分析のもとに行ったわけではなく,サンプルとして与えられたホームサーバコンテンツだけについて適切と判断されるアプローチを行い,Ontopia OKS Professional ver.3.3.0のOntologyによって実装した。

その構成(の一部)を文献[7]の記述に倣って図4に示す。



図4 試作したトピックマップの構成

5. 表示例

図4に示すトピックマップに関するOntopolyによるインスタンス表示結果とトピックマップの可視化ツールVizigatorを用いたノード/アークの関連表示とを図5,図6に示す。

   


図5 "作者"から"小町"へのアクセス


   


図6 "番組"から"ヘリ緊急救命"へのアクセス

5. むすび

入学したばかりの複数学科の学生達を寄せ集めて構成したコミュニティの中でつくられたヘテロな情報環境を例としてとりあげ,そこでの記録されたコンテンツへの利用者視点でのアクセス容易性を高めるためにトピックマップの構築を試みた。

情報リソースそのものから独立したトピックマップにおいてセマンティクスを導入することが,ヘテロな情報環境においても多様なコンテンツへのアクセスを容易にし得ることがある程度確認できた。これは,ヘテロな情報環境である情報家電機器利用環境へのトピックマップ導入の有効性を示唆している。しかしトピックマップの生成にはそれなりの専門性を必要とする。そこで情報家電機器利用環境へのトピックマップ導入には,トピックマップ生成をある程度自動的にサポートするようなツールの利用が必要となろう。

文献

[1] 小町祐史,溝端恵実: 携帯電話における個人化情報とその交換,画像電子学会 第248回研究会,248-3,2009-11-27

[2] DLNA Home networked device interoperability guidelines, Part 1: Architecture and Protocols, IEC/TC100/AGM(Secr.)395, 2006-04-17

[3] DLNA Networked device interoperability guidelines, Part 2: DLNA Media Formats, IEC/TC100/AGM(Secr.)396, 2006-04-17

[4] DLNA home networked device interoperability guidelines, Part 3: Link protection, IEC/TC100/1553/DC, 2009-04-24

[5] Networked Digital Media Standards - A UPnP / DLNA Overview, Allegro Software Development Co., 2006-10-26

[6] 2009年度基礎ゼミ実施報告書,大阪工大情報科学部, 2009-09

[7] 内藤求,他: トピックマップ入門,東京電機大学出版局,2006-12-10