この2年間において,インタネットへのアクセスを行う端末の種類が飛躍的に増大した.これはWi-Fi[1]に代表される無線LANを経由してのインタネットアクセスが普及し,さらにホームネットワークを経由してのインタネットアクセスが普及したことが大きく影響している.
Wi-Fiは携帯電話(ケータイ)にも導入されて,携帯電話網の不備を補うと共に,利用者にとっての通信コストの削減に寄与している.アクセスポイントの機能を含むケータイも開発され,Wi-Fi通信エリアはきめ細かく利用者の行動範囲に浸透し始めている.
このようなインタネットアクセスの広がりは,新たなアプリケーションの開発にも影響を与えている.ゲームの参加者は,インタネットのカバーエリアに広がり,参加者を募集する次のようなTwitterへの書き込みも見られるようになった.
夕方5時頃にWi-Fi繋げれる方、ポケモンBWにて対戦テストを手伝ってもらえませんか? 対戦開始→双方降参の流れです 協力者求むそこで今回のインタネットメディアの報告は,インタネットアクセス端末の増加をサポートする無線LANとそれを実装した機器についてレビューする.
無線LANの規格(IEEE 802.11)に従った異メーカの製品の間での相互運用性を確保するため,Wi-Fi Alliance[1]は,相互運用性とセキュリティに関する規格を設けて,製品がその規格に適合するかどうかの試験を行っている.認証を受けた製品は,図1に示すWi-Fi認証のロゴによって示される.
図1 Wi-Fi認証のロゴ
Wi-Fi仕様は,性能,周波数,帯域に関連する機能によって世代区分され,802.11aのように802.11に続くアルファベットの小文字によって識別される.各仕様には,セキュリティの強化が図られ,実装依存の機能を含めてもよい.
これまでに表1に示す4種類(802.11nを最新とする4世代)のWi-Fi仕様が規定され,同じ周波数帯で動作する前の世代の仕様の製品との運用性が保証される.
Wi-Fi仕様 | 周波数帯 | 帯域または最大データレート |
---|---|---|
802.11a | 5 GHz | 54 Mbps |
802.11b | 2.4 GHz | 11 Mbps |
802.11g | 2.4 GHz | 54 Mbps |
802.11n | 2.4 GHz, 5 GHz, 2.4 若くは 5 GHz (選択可), または 2.4 および 5 GHz (併用) | 450 Mbps |
すべてのWi-Fi認証(Wi-Fi CERTIFIED)装置は,強靭なセキュリティを保ち,WPA2(Wi-Fi Protected Access 2)認証は,装置が強靭なセキュリティとプライバシを保持して動作できることを示す.中核となる認証だけでなく,追加機能について試験を受けた装置に関するWi-Fi認証(表2参照)もある.
プログラム | 目的 |
---|---|
Wi-Fi Protected Setup (WPS) | 個人識別番号(PIN)を用いたり,アクセスポイントとクライアントのそれぞれに用意したボタンを押すことによって行うネットワークセキュリティの簡単な設定. |
WMMR (Wi-Fi Multimedia) | マルチメディアアプリケーションが生成するトラフィックの優先付けによって行う,Wi-Fiネットワーク上でのマルチメディアコンテンツの支援. |
WMM Power Save | 装置がスリープモードである時間を管理することによって,音声アプリケーションとマルチメディアのアプリケーションの利用期間中のバッテリ寿命の保存. |
既に7000件を超える製品が認証を受け,Wi-Fi ZONESでの相互運用性が保証されている.それらの製品はさまざまな分野に及び,Wi-Fi AllianceはWi-Fi認証製品を表3のように分類している.
分類項目 | 分類細目 |
---|---|
中核技術 | - 参照設計(Reference Design) |
ネットワーク機器 - アクセスポイント/ルータ |
- 家庭用または小規模オフィス用のアクセスポイント(無線ルータ) - 企業向けのアクセスポイント,スイッチ/コントローラまたはルータ |
ネットワーク機器 - ゲートウェイ | - ケーブル(CATV)ゲートウェイ,DSLゲートウェイまたは広帯域ゲートウェイ(統合ホームアクセス装置) |
家電 - カメラ |
- 静止画ディジタルカメラ - 携帯用ビデオカメラ - ネットワークウェブカメラ |
家電 - オーディオ装置 |
- ディジタルオーディオ - 設置形(スピーカ,レシーバ,MP3プレーヤ) - ディジタルオーディオ - 携帯用(MP3プレーヤ) |
家電 - ビデオ装置 |
- セットトップボックス,メディアプレーヤ,メディアレコーダ,メディアサーバ - 表示装置(テレビ,モニタ,画像フレームなど) |
家電 - ゲーム機 |
- ゲームコンソールまたはゲームコンソールアダプタ - ゲーム機 - 携帯用 |
家電 - 記憶装置およびサーバ |
- メディアサーバまたはメディアアダプタ - ネットワーク記憶装置(ネットワーク化ハードディスクドライプ) |
PCおよびPC用装置 - アダプタカード |
- 外付Wi-Fiアダプタカード - 内蔵Wi-Fiアダプタカード |
PCおよびPC用装置 - コンピュータおよびPDA |
- ラップトップPC - PDA(Personal Digital Assistant) - 高機能モバイルPC |
PCおよびPC用装置 - プリンタ | - プリンタまたはプリントサーバ(スキャナおよびFAXを含む) |
ケータイ |
- 2モードケータイ(Wi-Fiおよびセルラ) - 単一モードケータイ(Wi-Fiだけ) - 2モードスマートフォン(Wi-Fiおよびセルラ) - 単一モードスマートフォン(Wi-Fiだけ) |
その他 |
- バーコードスキャナ - その他 |
Wi-Fi Allianceのこれらの活動によって,無線LANを用いてインタネットへのアクセスを行う端末は著しく増加した.
KDDIと沖縄セルラー電話は,Wi-Fi WINサービス[2]を提供して,Wi-Fi WIN対応機種からCDMA 1X WIN(CDMA2000 1x/1xEV-DO)の回線を通さずに,一般の通信回線にWi-Fi経由でアクセス可能にした.Wi-Fi通信中はパケット通信料無料であるが,Wi-Fi WINサービス契約が必要である.無制限,無差別に利用できるアクセスポイントには,FREESPOT,BBモバイルポイントがある.
NTTドコモはMzone[3]と呼ばれる公衆無線LANサービスを提供している.802.11a, 802.11b, 802.11gに対応し,NTTドコモの無線LAN対応ケータイ,スマートフォン,および各種の無線LAN対応機器による利用が可能.NTTドコモの携帯電話サービスの契約の有無に応じた各種オプションが用意されている.ホームU[4],mopera U[5]などの無線LANサービスも用意されている.
ソフトバンクモバイルは2009年にケータイWi-Fi[6]という公衆無線LANサービスを開始した.3G回線を通さず、一般の通信回線にWi-Fi経由でアクセス可能である.ソフトバンクWi-FiスポットやBBモバイルポイントで利用することができる.
アクセスポイント(AP)は,そのモバイル化(モバイルWi-Fiルータ,ケータイのアクセスポイントモード)によって,これまで無線LANのアクセスポイントがない場所でも無線LANを介したインタネットアクセスを可能にしている.
2010年の夏には,エヌ・ティ・ティ・ブロードバンドプラットフォームとバッファローが"ポータブルWi-Fi"を発表した[7].外出先の3G回線だけでなく,自宅のインタネット接続回線,公衆無線LANもルーティングの対象となる[8].携帯ゲーム機などのWiFi設定変更が面倒なモバイル機器を同じ設定のまま使うという利用方法が可能になった.
イー・モバイルは,イー・モバイルサービスエリアであればどこでもWi-Fi利用が可能なモバイルWiFiルータ"Pocket WiFi"を提供している.特に携帯ゲーム機の利用者を意図して,外出先でいつでもオンライン対戦型ゲームやプレイヤー同士のコミュニケーションが楽しめることを強調している[9].
これら以外の製品をも含めた各社のモバイルWi-Fiルータの比較[10]なども既に発表されている.
モバイルWi-Fiルータ機能をケータイに内蔵させたアクセスポイントモードをサポートするケータイも発表されている.同時に接続できる機器の数が限定されるが,AP設定方法に多様な利用者への配慮がなされていて,携帯ゲーム機等の情報家電機器との併用が期待される.ドコモのN-06Aに関するAPモードの仕様[11]を表4に示す.
インタネット接続 最大7.2MbpsのFOMAハイスピードネットワーク(FOMAハイスピード非対応エリアでは最大384Kbps) 無線LAN LAN側のIPアドレスは「192.168.1.x」に固定 設定したMACアドレスだけ接続可能 MACアドレスの接続制限にも対応(拒否設定はできない) 暗号化方式 WEPまたはWPA2-PSK |
バッテリでの稼働時間,同時に使用できるケータイ機能,通信速度,接続に要する時間等について,利用者からの報告も行われている[12].
無線LANの利用によって,無線LAN経由でのインタネットへのアクセスを行う端末が増加している現状をまとめた.類似の無線アクセスはWiMAXなどによってもサービスされ,DLNA[13]などの規格整備が進んだホームネットワークの充実によっても各種情報家電機器によるインタネットアクセスは増えている.
Wi-Fiケータイなとはまだ開始されて間もないサービスであり,利用者からの課題の指摘[14]がなされているが,今後のインタネット利用者の増加をサポートする技術であり,そのインタネットアプリケーションの多様化への寄与が期待される.
[1] Wi-Fi Alliance, http://www.wi-fi.org/discover_and_learn.php [2] Wi-Fi WIN, http://www.au.kddi.com/service/kino/wifi/ [3] Mzone, http://ja.wikipedia.org/wiki/Mzone [4] ホームU, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9B%E3%83%BC%E3%83%A0U [5] mopera, http://ja.wikipedia.org/wiki/Mopera [6] ケータイWi-Fi, http://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%82%B1%E3%83%BC%E3%82%BF%E3%82%A4Wi-Fi [7] NTTドコモ・バッファローのモバイルWiFiルータ,http://itpro.nikkeibp.co.jp/article/NEWS/20100518/348169/ [8] モバイルWi-Fiルーター BF-01B, http://www.nttdocomo.co.jp/product/data/bf01b/topics_01.html?to_feature=top_h3_1#t_01 [9] Pocket WiFi(D25HW), http://emobile.jp/products/hw/d25hw/ [10] 各社のモバイルWiFiルータ比較, http://shimajiro.sakura.ne.jp/2010/05/20/ [11] ドコモN-06Aレビュー,http://thinkpadblog.blog96.fc2.com/blog-entry-894.html [12] アクセスポイントモードの使い勝手,http://plusd.itmedia.co.jp/mobile/articles/0908/06/news087.html [13] DLNA Home networked device interoperability guidelines, Part 1: Architecture and Protocols, IEC/TC100/AGM(Secr.)395, 2006-04-17 [14] 増永貴世: 携帯電話におけるwi-fiネットワーク利用の問題点とその対策,画像電子学会第38回年次大会, S4-1, 2010-06