3-1 インタネットメディア

小町 祐史 (パナソニックコミュニケーションズ(株))

1. まえがき

これまでの年報におけるインタネットメディアの報告は, IETF, W3C, OASIS(Organization for the Advancement of Structured Information Standards)などのインタネットおよびその応用に関連する国際的組織によって推進される最新動向のサーベイを行ってきた.それらの組織によって開発された幾つもの規定の中で特に重要と判断された規定は, 既に国内で翻訳され, 主として標準情報(TR)として日本規格協会から公表されている.今回のサーベイは, それらの公表された翻訳に焦点を当てる.

2. 翻訳規定の出版

我が国では, ISO, IECおよびITUが発行する主要な規定を国際規格と呼び, 日本工業規格(JIS)はできるだけ国際規格に一致することが推奨されている.ISO, IECおよびITUではない標準化団体が発行する規定については, 必要に応じ, 規定内容に関する安定化とコンセンサスの確立とを待ってJIS化が行われてきた.規定内容に関する安定化とコンセンサスの確立のために, 標準情報(TR)の公表が用いられてきた.

注1: 標準情報(TR)の制度は, 2003年に改正され, 多くは標準仕様書(TS)に移行することになった.

IETF, W3Cなどの団体規定については, 必ずしも翻訳は必要ではないとの判断があり, JIS化の対象として議論されることは多くはなかった.しかしXMLのように, 多くのシステムで利用され, 多くの規格で参照される規定については, 訳語・解釈の統一を図ると共に, 公共調達を容易にするために, 原規定に一致する翻訳JISの制定が強く望まれている.

注2: XMLについては, W3CのRecommendationがTR X 0008として公表された後, 市場動向が確認され, それにW3Cでの改訂を含めたJIS X 4159:2002が制定された.

XML以外にも, 翻訳されてTR(またはTS)として公表されたインタネット関連団体の規定は少なくない.ここでは, それらを原規定を開発した団体別に概観する.

3. IETFのRFC

頻繁に使われるRFCの翻訳として, 次のTRまたはTSが公表されている.ここで[ ]内に原規定のRFC番号を示す.

TS X 0085:2004, ハイパテキスト転送プロトコル HTTP/1.1 [RFC 2068]
TS X 0097:2004, 統一資源識別子(URI) 共通構文 [RFC 2396]
TR X 0069:2002, 多目的インターネットメール拡張(MIME) 第1部 インターネットメッセージ本体のフォーマット [RFC 2045]
TS X 0070:2004, 多目的インターネットメール拡張(MIME) 第2部 メディア型 [RFC 2046]
TS X 0071:2004, 多目的インターネットメール拡張(MIME) 第3部 非ASCIIテキストへのメッセージヘッダ拡張 [RFC 2047]
TR X 0055:2002, インターネット利用者のための用語 [RFC 1983]

電子出版の要素技術としての要求から, 次の翻訳も公表されている.

TR X 0017:2002, インタネット印刷プロトコル(IPP) 1.1: 符号化及びトランスポート [RFC 2910]
TR X 0024:2001, インタネット印刷プロトコル(IPP) 1.1: モデル及び機能定義 [RFC2911]

TR X 0046:2001, vCard電子名刺のMIMEディレクトリプロファイル [RFC 2426]
TR X 0045:2001, ディレクトリ情報のためのMIME内容型 [RFC 2425]

いずれも, 日本規格協会のINSTACに設けられた原案委員会による翻訳である.

4. W3CのRecommendation

W3CのRecommendationについては, 日本事務機械工業会(当時)からの要望があり, 日本規格協会のINSTACに原案委員会を設立し, W3Cのメンバとの密接な連携のもとに次に示す翻訳原案の作成が行われた.W3CのRecommendationは, 規定番号がないので, 原規定の表題を[ ]内に示す.

4.1 HTML, CSS

HTML関連のRecommendationについては, 次の翻訳が公表されている.なお, HTML 4.0を参照しているISO/IEC 15445 HyperText Markup Language (HTML)については, それに一致するJIS X 4156:2000が制定されている.

TR X 0033:2002, ハイパテキストマーク付け言語(HTML) 4.0, [HyperText Matrkup Language (HTML) 4.0 Specification]
TR X 0037:2001, 拡張可能なハイパテキストマーク付け言語 XHTML 1.0, [XHTML 1.0: The Extensible HyperText Markup Language]
TR X 0051:2001, XHTML基本, [XHTML Basic]
TR X 0056:2002, XHTMLのモジュール化, [Modularization of XHTML]
TR X 0080:2003, XHTML 1.1 - モジュールに基づくXHTML, [XHTML 1.1 - Module-based XHTML]

CSSについての公表は次のとおりである.CSS1については, まずTR X 0011:1998が公表され, 市場動向の確認の後, それにW3Cでの改訂を含めてJIS X 4168が制定された.

JIS X 4168:2004, 段階スタイルシート 水準1(CSS1), [Cascading Style Sheets, level 1 (CSS1)]
TR X 0032:2000, 段階スタイルシート 水準2(CSS2), [Cascading Style Sheets, level 2 CSS2 Specification]

4.2 XML

XML関連のRecommendationについては, 次の翻訳が公表されている.

JIS X 4159:2002, 拡張可能なマーク付け言語 (XML), [Extensible Markup Language (XML)1.0]
TR X 0023:1999, XML名前空間, [Namespaces in XML]
TR X 0076:2003, XMLリンク付け言語 (XLink) 1.0, [XML Linking Language (XLink) Version 1.0]
TR X 0015:2002, XML日本語プロファイル, XML Japanese Profile
注3: XML日本語プロファイルについては, まずTR X 0015が国内で公表され, その英訳が, XML Japanese Profileと題するW3C NOTEになった.
TR X 0054:2002, XMLスキーマ 第0部 基本, [XML Schema Part 0: Primer]
TR X 0063:2002, XMLスキーマ 第1部 構造, [XML Schema Part 1: Structures]
TR X 0064:2002, XMLスキーマ 第2部 データ型, [XML Schema Part 2: Datatypes]
注4: この3件(0054, 0063, 0064)のTRは要約である.

4.3 XSL, XPath

XMLベースのスタイル指定関連のRecommendationについては, 次の翻訳が公表されている.

TR X 0088:2003, 拡張可能なスタイルシート言語(XSL) 1.0, [Extensible Stylesheet Language (XSL) Version 1.0]
TR X 0048:2001, XSL変換(XSLT) 1.0, [XSL Transformations (XSLT) Version 1.0]
TR X 0089:2003, XMLパス言語 (XPath) 1.0, [XML Path Language (XPath) Version 1.0]

4.4 DOM

DOMのRecommendationについては, 次の翻訳が公表されている.

TR X 0019:1999, 文書オブジェクトモデル(DOM)水準1 規定, [Document Object Model (DOM) Level 1 Specification]
TR X 0065:2002, 文書オブジェクトモデル(DOM)水準2 コア規定, [Document Object Model (DOM) Level 2 Core Specification
TR X 0060:2003, 文書オブジェクトモデル(DOM)水準2 イベント規定, Document Object Model (DOM) Level 2 Events Specification
TR X 0078:2003, 文書オブジェクトモデル(DOM)水準2 ビュー規定, Document Object Model (DOM) Level 2 Views Specification
TR X 0082:2003, 文書オブジェクトモデル(DOM)水準2 スタイル規定, Document Object Model (DOM) Level 2 Style Specification
TR X 0083:2003, 文書オブジェクトモデル(DOM)水準2 たどり及び範囲の規定, Document Object Model (DOM) Level 2 Traversal and Range Specification

4.5 RDF

RDFのRecommendationについては, 次の翻訳が公表されている.

TR X 0022:1999, 資源記述の枠組み(RDF) モデル及び構文規定, [Resource Description Framework (RDF) Model and Syntax Specification]

4.6 XML応用

XML応用のRecommendationについては, 次の翻訳が公表されている.

TR X 0014:1999, 同期化マルチメディア統合言語(SMIL) 1.0, [Synchronized Multimedia Integration Language,SMIL 1.0]
TR X 0093:2003, 同期化マルチメディア統合言語(SMIL 2.0), [Synchronized Multimedia Integration Language (SMIL 2.0)]

TR X 0077:2003, Xフォーム1.0, [XForms 1.0]
TR X 0094:2003, SMILアニメーション, [SMIL Animation]
TR X 0095:2003, 変倍ベクタ図形(SVG) 1.0, [Scalable Vector Graphics (SVG) 1.0 Specification]
注5: この3件(0077, 0094, 0095)のTRは要約である.
TR X 0047:2001, XMLによる画像参照交換方式, Picture Reference Exchange by XML
注6: XMLによる画像参照交換方式については, まずTR X 0047が国内で公表され, その英訳が, Embedding Glyph Identifiers in XML Documentsと題するW3C NOTEになった.
TR X 0096:2003, ウェブ文書記述関連用語, Glossary of Terms Used in Web Documents Description
注7: この規定は, 13件のW3C関連規定から用語を抽出してまとめた規定である.

5. その他の規定

TopicMaps.OrgおよびTopicmaps.netが開発した規定の翻訳を次に示す.

TR X 0057:2002, XMLトピックマップ(XTM) 1.0, XML Topic Maps (XTM) 1.0
TR X 0090:2003, XTM 1.0のための処理モデル - XMLトピックマップのための処理モデル, Processing Model for XTM 1.0 - A Processing Model for XML Topic Maps

6. むすび

ここに示した多くの翻訳規定のハードコピーは, 日本規格協会から有料で入手できる.ソフトコピーは, 次の日本工業標準調査会(JISC)のWebからレビューできる.

http://www.jisc.go.jp/

これらの翻訳は, 原則としてJIS Z 8301 "規格票の様式"に従った表記を採用している.翻訳原案作成の作業量は決して少ないものではなく, 今後の翻訳規定の公表に関する利用者要求の確認とその充足のための指針が望まれる.