2-1 (5) インタネット技術

松下電送システム(株) 小町 祐史


1. まえがき

さまざまな技術の集合体としてのインタネットに関する最近の2年間の目立ったトピックについて概観する。インタネットの動向調査研究として, 筆者を含む数名の委員による系統的な活動がある。本稿は, その活動の報告書[1]に示された要点を中心にまとめた。

2. 普及と高速化

2.1 接続性と資源規模

この2年間にも, インタネットはさらに普及と高速化を継続している。普及の程度については, 多様な評価基準があり得るが, 幾つかの調査機関がその調査研究結果をWeb上に公開している。Wisconsin大学の接続性テーブル[2]は, 国別の普及程度を地図上に色分けしていて, 理解し易いので, 図1に掲載する。

図1 インタネットの国際接続性[2]

一部にEmailだけの国があるが, 規模を無視すれば, インタネットはほぼ地球上を網羅したと言えるであろう。ドメイン数, ホスト数などのインタネット資源に関する調査結果の数値[3][4]も公開され, それらはインタネットが着実にその規模を拡大していることを示している(表1参照)。


表1 DNSに示されたホスト数[3]
     時期  |  ホスト数   
     ------+-------------
     Jul 98| 36,739,000  
     Jan 98| 29,670,000  
     Jul 97| 19,540,000  
     Jan 97| 16,146,000  
     Jul 96| 12,881,000  

2.2 アクセス系

一般加入者がインタネットにアクセスするためアクセス系と呼ばれる回線については,次の方式が普及し, それぞれの伝送容量でISP(Internet Service Provider)のアクセスポイントに接続する。

クライアントからのリクエストデータ(上り)容量に比べてサーバからのレスポンスデータ(下り)容量が大きいという性質を積極的に用いたADSL(Asymmetric Digital Subscriber Line: 一般的にはxDSL)が注目されている。これよって,下り通信については数Mbpsでの通信が期待され,実際の環境でも確認されている。

CATV(ケーブルテレビ)用に引き込んだ回線を使った通信も確立されつつあり,ケーブルモデムを経由して, 上り容量の数Mbps, 下り容量の数十Mbpsが得られている。衛星通信路のアクセス系回線としての活用も試みられている。

2.3 ネットワークトポロジ

ISPのルータをWAN回線でフルメッシュに接続することは, ISP相互接続方法として効率的でない。そこで集中的な交換ポイントであるIX(Internet exchange point)を設け, WANまたはLAN回線によってISPをIXに接続して, ISPへの接続性確保と回線接続の効率化とが行われている。国内でのNSPIXP-2(WIDE), 米国でのMAE-East, CIXなどがその例である。

2.4 コンテンツ集積所

2次, 3次のISPのユーザに対するサーバアクセスから応答までの時間を削減するために,コンテンツプロバイダは, 近くのISPにミラーサーバを置いてきた。最近は, コンテンツ集積所を設置して大手ISPに接続し,ユーザまでのアクセスの均一性を確保すると共に,ミラーリングの経費削減を行っている。国内での例として, MF(InternetMULTIFEED)がある。

3. 放送形通信

3.1 インタネット放送

インタネット上で放送と類似性のあるサービスが行われ始めた。これらは, 次のように分類される。

(1) プッシュ形サービス
ユーザがWebサーバにアクセスしなくてもブラウザが定期的に自動アクセスして, ニュースなどの情報を取得するスマートプル形の情報提供サービス。ユーザには, 自動的に情報が送られてくるように見える。Pointcast Network, Castanetなどがその例である。
(2) ストリーム形サービス
Web上で, これまでの文字列と同様に映像, 音声などの時間軸上の流れ(ストリーム)を提供する。ユーザの情報アクセスはプル形である。ストリーム形サービスのソフトウェアとして, RealPlayer, StreamWorks, VDOLiveなどがある。
(3) マルチキャスト
MBone(Multicast backBONE)IPマルチキャストによって, リアルタイム情報配信を行う。MBone上にはマルチキャストのセション情報が流れており, 受信者がその中から希望のチャネルを選んで, マルチキャストルータに対して受信(join)を希望するマルチキャストグループアドレスを送ると, マルチキャストルータから複製されたパケットが受信者に届けられる。

3.2 テレビ受信機によるWebアクセス ("インタラクティブTV")

 テレビ受信機を使ってWeb情報にアクセス可能にするために, 次の実装が用意されている。

一般のWWWサイトからWeb情報を利用できる場合と, 専用サーバを設置して, 高速化, 見易くするための画面処理などを行った情報に限定して利用できる場合とがある。

4. インタネット2

現行のインタネットでは対応が不十分な分野における問題を解決するために, 1996年10月に34の大学が共同で超高速のインタネット2を開発することを発表し, その後,さらに多くの研究大学が協力することになった[5]。このプロジェクトは, 超高速ネットワークを構築するだけではなく, それに適した応用の開発も計画している。文書情報交換を主眼とする応用については, PNC(Pacific Neighborhood Consortium)などのグループが積極的な活動を行っている[6]

米国では幾つかの大学が既にネットワークへの接続を行い, North CarolinaのGiganetはインタネット2のアーキテクチャで運用を開始して, 97年始めには数大学での運用も開始された。

インタネット2は2.5Gbpsで運用されることが期待されている。バックボーンにはvBNS(very-high-speed Backbone Network Serveice)[10]があり, 数箇所のスーパコンピュータセンタと幾つかの大学が, gigapops(gigabit-capacity-points of presence)と呼ばれる基幹ノードを介して, 接続されている。gigapopsでは,ATMの基本的なネットワークリンクの機能によって,マルチメディアからTCP/IPの応用に至る幅広い通信が可能となる。

インタネット2では,RSVP(資源予約プロトコル)を利用して, 実時間でデータ量の大きいマルチメディア応用におけるサービス品質を管理する。ネットワーク層においては, 現行のインタネットプロトコル第4版(IPv4)と次世代IP(IPv6)をサポートする。

5. Web文書

HTML(HyperText Markup Language)は, その単純さが文書記述を極めて容易にし, しかも関連ツールの開発も容易にして, 大量のハイパテキストがWeb文書としてネットワーク上に蓄積された。逆に, これがインタネットの普及を促進することにもなった。しかしその当然の結果として, HTMLの限界がクローズアップされることとなり, HTMLと同様の手軽さでSGML(Standard Generalized Markup Language)と同様の文書記述を行いたいというユーザ要求が強まってきた。

この要求に応えるためにW3C(World Wide Web Consortium)が開発した記述言語がXML(Extensible Markup Language)であり, SGMLのサブセットに位置付けられる。つまりXMLは, HTMLでは扱えない文書構造をDTD(文書型定義)を定義することによってサポートし, これまでのHTML処理系と同様に, DTDが与えられなくても処理を可能としている。W3Cは1996年末に最初のXMLドラフトを発表すると共にその更新を続け, 1998年2月にその勧告[7]を制定した。国内では, 翻訳された標準情報(TR)が既に出版されている[8]

Web文書は, 人が閲覧するためだけのものではなく, 検索ロボットのようなマシンが扱えるもの(document-like object)であることが必要になり, 従来の文書のコンセプトを拡大した機械可読文書[9]に関する新たなXML応用が始まった。CDF(Channel Definition Format)に基づくウェブキャスティング, OSD(Open Software Description)という形式を用いたソフトウェアの自動更新などのXML応用が既に実用化され, さらに従来のメタデータの規定の上に, 一般性の高い枠組みを提供するRDF(Resource Description Format)[11]がW3Cによって検討されている

6. むすび

インフラストラクチャとしてすっかり生活に定着したインタネットは, 新たな文化と社会問題とを発生させ, それがさらに新しいインタネット技術の開発を要求している。このサイクルが加速化していることもインタネットの特徴と言えよう。

冒頭に示したINSTAC マルチメディア/ハイパーメディア調査研究委員会のメンバの方々に感謝する。

文献