画像電子学会
The Institute of Image Electronics Engineers of Japan
  年次大会予稿
Proceedings of the Meida Computing Conference

視覚障がい者のための化粧支援の検討
Make-up support for visually handicapped person

− リップメイクとアイメイクの支援インタフェース
− User interface to support rouging lips and eye make-up

藏屋 直身               小町 祐史
Naomi KURAYA    and     Yushi KOMACHI

大阪工業大学情報科学研究科    Graduate School of Information Science and Technology, Osaka Institute of Technology

E-mail: †m1m10a09@st.oit.ac.jp, ‡komachi@y-adagio.com

1. はじめに

化粧の心身への望ましい影響が指摘され,視覚障がい者に対するメイクアップの講習等が実施されているが,視覚健常者によるサポートが前提となっている.しかし化粧は自分の顔に繰り返し施しながら手先や指先で習得していく技術であり[1],自身で実施するための化粧支援システムの導入が望まれる[2].ここではリップメイクとアイメイクに着目して,視覚障がい者を対象とする化粧支援の検討を行う.

顔画像からの唇抽出は機械読唇,表情分析を目的として以前から研究が行われてきた[3][4].化粧の客観的な評価のためにメイクアップ支援システムが研究され,各種画像処理技術を用いて顔画像から唇の輪郭形状を検出する方式が報告されている[5].関連の研究では,ユーザの感性を形容詞で表現する試みも行われている[6].

これらの先行研究を踏まえて,視覚障がい者が希望するメイクを支援システムに伝え,顔画像から検出されるリップメイクおよびアイメイクの状態を適切に視覚障害のあるメイクする者にフィードバックして,修正を促すための支援インタフェースを提案し,彼らが希望するメイクを自身で実行し易くするための検討を行う.

2. 唇の輪郭形状と口紅イメージ

顔画像から唇の輪郭形状は口唇周辺の明度と色成分の分布を調べることによって,特別な照明を施すことなく検出できる[3].

リップメイクは,この輪郭形状に対して実施するのではなく,この輪郭形状をメイクする者が希望する"口紅イメージ"に修正した輪郭形状に対して実施される[5].視覚障害のあるメイクする者が,希望する口紅イメージを化粧支援システムに伝えるには,文献[5][6]が提案する形容詞に基づく3種の口紅イメージ(表1)が利用できる.この口紅イメージに基づくリップメイクの例を図1に示す.

表1 形容詞に基づく3種の口紅イメージ
形容詞口紅イメージ
シャープ唇の山と口角を鋭角的に描く.
ナチュラル唇の輪郭に沿って描く.
優しい唇の山と口角を丸みをつけて描く.
     
(a) シャープ(b) ナチュラル(c) 優しい

図1 3種のリップメイクの例

3. リップメイクする者への指示

口紅イメージになるべく近いリップメイクを指示するには,メイクされた輪郭形状と口紅イメージとの差を適切にメイクする者にフィードバックして修正を促す必要がある.この時に配慮すべきことは,視覚障害のあるメイクする者にとって分かりやすく,しかもメイクの修正を施し易い指示でなければならない.例えば顔座標における位置をmm単位で指定されても,メイクする者はアクションを開始できない.

メイクする者が必要とする情報は,どの部分を太らせるか細めるかである.部分の指定はリップメイクに際して適切な精度であることが必要である.そこでここでは図2に示すロケーションモデルを提案し,そのロケーションを図3の呼称で指示する.

太らせるか細めるかの程度も適切な精度であることが必要であり,唇の厚さの1/5を単位として, 図4の指示を用いることとする.



図2 リップメイクのロケーションモデル
     
 右上3 右上2 右上1  上  左上1 左上2 左上3  
右端 左端 
 右下3 右下2 右下1  下  左下1 左下2 左下3  

図3 リップメイクロケーションの呼称

  <--- 太らせる        細める --->   
太3太2太1   細1細2細3

図4 太らせる(細める)程度の指定値

4. アイブロウ

眉毛は顔全体の印象に大きく影響を与え,図5に示すような鼻と目の位置からバランスのよい整え方が望まれる[7].しかし左右対称の適切なアイブロウは視覚健常者でも難しいため,アイブロウテンプレートなどのツールが提供されている.これを用いると,鼻,目頭,目尻,眉頭の位置から定まる位置に,メイクする者が希望する"眉毛イメージ"の眉毛形状[8]のテンプレートをあてがって,眉毛を書くことができる.

視覚障害のあるメイクする者が,希望する眉毛イメージを選択するための支援として,口紅イメージと同様に,表2に示す形容詞と眉毛イメージとの対応を提案する.眉毛イメージとテンプレートの眉毛形状との対応は,テンプレートに依存する.

テンプレートの利用を前提とすれば,アイブロウ結果とテンプレートの眉毛形状との差異に関するフィードバックは不要であろう.


図5 アイブロウ
               
表2 形容詞に基づく5種の眉毛イメージ
形容詞眉毛イメージ
シャープ
ナチュラル
優しい
かわいい
和風

5. アイシャドウ

アイシャドウは瞼に対して図6のような濃さでベースを眉下からまぶた全体になじませる.濃さの変化率に不自然さがあるとき,化粧支援システムはその位置を図6の中に示すロケーションモデルに対応する表3のロケーションの呼称によって知らせる.



図6 アイシャドウとそのロケーションモデル
         
表3 アイシャドウロケーションの呼称
図6の中の記号呼称
@ 目頭上 
A 眉山下 
B 目尻上 

5. カラー選択

表4 化粧後の顔の"イメージ"
    を表わす形容詞

かわいい
おとなしい
華やか
大人っぽい

文献[6]は化粧後の顔の"イメージ"を表わす形容詞を表4のように提案し,これらのイメージを選ぶことによって,アイシャドウと口紅のトーンを決定する手法を提案している.表色体系として,PCCS表色系[9]を用いる.

これに関しては,さらに肌の色との関連を追加することが望まれる[10].また市販されている口紅/アイシャドウの色指定との対応についても検討する必要がある.

6. むすび

視覚健常者によるサポートを前提としない視覚障がい者のためのリップメイクおよびアイメイクに必要な,メイクする者が希望するメイク内容を支援システムに伝えるインタフェース,および支援システムからメイクする者へのフィードバックのインタフェースについて検討し,提案した.

ここに提案した支援インタフェースの制度と妥当性について,今後さらに実証実験を行う必要がある.

文献